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札幌高等裁判所 昭和58年(ネ)273号 判決

主文

控訴人らの本件各控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人ら

1  原判決を取消す。

2  被控訴人は、控訴人株式会社ナカ技術研究所に対し、金二八六〇万円及びこれに対する昭和五六年五月一三日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え(なお、当審において、本訴請求のうち被控訴人製品の製造・販売の禁止を求める部分につき訴を取下げた。)。

3  被控訴人は、控訴人ナカ工業株式会社に対し、金六五〇〇万円及びこれに対する昭和五六年五月一三日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え(なお、当審において、本訴請求のうち被控訴人製品の製造・販売の禁止を求める部分につき訴を取下げた。)。

4  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

5  仮執行宣言

二  被控訴人

主文同旨

第二  当事者の主張

一  控訴人らの請求原因

1(一)  控訴人株式会社ナカ技術研究所(以下「控訴人ナカ技研」という。)は、昭和五一年五月二〇日、別紙特許権目録記載の特許権(そのうち、特許請求の範囲1記載のものを「本件特許権」といい、その発明を「本件発明」という。)を、その権利者中博光から譲り受け、同年八月一六日、その旨の特許権移転登録手続を経由した。なお、本件特許権は、昭和五九年九月一〇日、存続期間満了により消滅した。

(二)  控訴人ナカ技研は、昭和五一年五月二〇日、別紙実用新案権目録記載の実用新案権(以下これを「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という。)を、その権利者中博光から譲り受け、同年八月二三日、その旨の実用新案権移転登録手続を経由した。なお、本件実用新案権は、昭和五四年九月一六日、存続期間満了により消滅した。

2(一)  控訴人ナカ工業株式会社(以下「控訴人ナカ工業」という。)は、昭和四八年二月一〇日、当時本件特許権利者であつた中博光より、本件特許権につき、その権利の存続期間中範囲全部の専用実施権の設定を受け、同年五月二四日、その旨の専用実施権設定登録手続を経由した。

(二)  控訴人ナカ工業は、昭和五一年六月一五日(本件実用新案権につき、中博光が控訴人ナカ技研に権利譲渡したのち、その登録完了前)、中博光より、本件実用新案権につき、その権利の存続期間中範囲全部の専用実施権の設定を受け、同年八月二三日、その旨の専用実施権設定登録手続を経由した。

3  本件発明の構成要件及び作用効果は、次のとおりである。

(一) 本件発明の構成要件

(1) 枠の下端部が内側に突出した外枠に、外枠の下端縁と内枠の下端縁が近接して揃うように内枠を嵌入していること。

(2) 外枠及び内枠の一側方に偏し且つ枠の下端縁より上方に設けられた軸体があること。

(3) 外枠に、軸体によつて、内枠を回動自在に枢着していること。

(4) 天井点検口であること。

(二) 本件発明の作用効果

四角形を有する外枠に、同様四角形を有する内枠を嵌入して、外枠の一側方に偏して、且つ、枠の下端縁よりも上方の位置に軸体を設けて回動自在に枢着しており、天井点検口を使用する際には、開閉装置を解錠することによつて、外枠に嵌入している天井板を張着した内枠が軸体を中心として下方に自動的に回動して開蓋するものであるから、蓋板を縁枠から取りはずして開蓋する煩わしさがなく、容易にかつ軽快に開蓋できると共に、天井点検口やその付近の汚損や損傷が全くなく、長期使用に供することができる。更に、内外枠の隙間が極くわずかであり、また、これらの下端部が同一平面となるため、天井面の仕上げが優美である。また、軸体は天井面に全く表われないため、軸体の天井面露出によつて美観が損われることがなく、しかも必要に応じて十分に太い軸体を用いることができるため、堅牢な天井点検口が得られる。

4  本件考案の構成要件及び作用効果は、次のとおりである。

(一) 本件考案の構成要件

(1) 枠の下端に外向き突縁を設けた外枠に、枠の下端に内向き突縁を設けた内枠を、外枠の下端縁と内枠の下端縁を同一平面状とするよう嵌入していること。

(2) 外枠及び内枠の一側方に偏し且つ枠内の下端縁より上方に設けられた軸体があること。

(3) 外枠に、軸体によつて、内枠を開閉自在に枢支していること。

(4) 天井点検口であること。

(二) 本件考案の作用効果

外枠の下端には外向き突縁を、また、この外枠に枢支される内枠の下端には内向き突縁を設けて、これらの突縁に天井板の端部を載置係合するため、天井板と内外枠との係合が極めて簡便であり、また内枠を開閉する際に生じやすい振動や衝撃或は天井板自体の重みによつて天井板が内外枠から剥離したり脱落する等の惧れがない。更に、脆弱或は加工しにくい等の理由で天井板の端部が欠損したり寸法誤差が生じても内向き突縁及び外向き突縁により隠蔽されて天井面の仕上がりを美麗とすると共に、天井板の端部を保護することができる。更に、内枠を外枠に各々の枠の下端縁を同一平面状とするよう嵌入すること、及び軸体を内外枠の一側方に偏し且つ枠内の下端縁より上方に設けることによつても、内外枠の下端縁と天井面とを略々同一平面状としたり軸体を天井面に突出させないようにできるため、天井面の仕上がりを美麗とすることができ、且つ内枠の容易な開閉を妨げない。

5  被控訴人は、「テンケンハッチ」の商品名で別紙第一物件目録記載の天井点検口を昭和五一年九月一日以前から業として製造・販売し、さらにその後「テンケンハッチユース」の商品名で別紙第二、第三の各物件目録記載の天井点検口(以下、物件目録の番号順に「イ号物件」、「ロ号物件」、「ハ号物件」といい、これらを「被控訴人製品」と総称する。)を業として製造・販売している。

6  被控訴人製品と本件発明の構成要件との対比

(一) 被控訴人製品は別紙物件目録中の図面に表示された外枠1(以下単に「外枠1」などという。)の枠片2の下端には内向きの突縁が設けられているので、外枠1の下縁部は内側に突出しており、内枠7の枠片8の下端には外向きの突縁が設けられており、外枠1の下端縁6と内枠7の下端縁13とが近接して揃うように外枠1内に内枠7を嵌入しているので、本件発明の構成要件(1)を充足する。

なお、本件発明における外枠下端縁の突出は、被控訴人主張のように「回動のための空間」のみを隠すものではなく、広く内枠と外枠との間の隙間を隠すためのものというべきところ、被控訴人製品においても「屈曲突縁101」と称する突縁が「回動のための空間」を含めて内枠と外枠との間に形成される「空間」を狭めており、内枠の対角線長が回動して空間を通過するもので、被控訴人主張の「はめあいの空間」では足りず、「回動のための空間」が内枠と外枠との間に存在している。

(二) 被控訴人製品は、(1)一対の係止金具11の半円形状の下端部12が軸体に当り、(2)同係止金具は内枠2のコーナー金具の端部を折り曲げて形成されているので、閉蓋時の内枠及び外枠との位置関係では、軸体である同係止金具の下端部は、内枠2の一側方に偏すると共に外枠1に対しても一側方に偏して設けられており、(3)また、同係止金具は、細長い板状の小片であつて、その上下端は内枠2の上下端に達しないので、内枠2の下端縁より上方に設けられているというべく、かつ、外枠1の下端内側に設けられた溝5に嵌載するので、外枠の下端縁より上方に設けられているので、本件発明の構成要件(2)を充足する。

なお、本件発明は、その具体的構造のうちに具現された技術的思想について与えられたものであり、明細書中の図面や発明の詳細な説明の項に示された実施例に限定されるいわれはなく、当業者にとつて「軸体」に含まれるものについて権利が付与されたとみるべきところ、右にいう「軸体」とは回転の中心となる直棒に限定されるものではなく、その使用目的、使用個所に応じて適宜変形されうるもので、外枠と内枠を連結するものであること内枠を外枠に支えるものであること内枠を九〇度開閉するための軸心としての働らきをするものであること軸心としての機能を有する有体物であることという各要件を充たすことで足りるものである。そして、当業者にとつて、軸とは内枠の回動の中心となるものではあるが、回転の中心が一定に固定したものでなければならないということはなく、回転の中心が移動していくものと考えられることは常識である。ところで、被控訴人製品においては、その係止金具の下端には回転の中心となる丸棒が存在しており、それが設計上かなり短かく、板状に形成されているにすぎず、「軸体」の存在を否定することはできない。

(三) 被控訴人製品の係止金具11は、半円形状の下端部12を外枠1の下端内側の溝5に嵌載し、外枠1の上端の内向き突縁により上方への脱出を妨げられており、開閉の際に軸体の移動は殆どないので、内枠2は、一対の係止金具11の下端の半円形状部、すなわち一対の軸体によつて外枠1に回動自在に枢着されているので、本件発明の構成要件(3)を充足する。

なお、「枢着」とは軸体と軸受により二物体を回転可能に連結する場合が典型例であるが、この場合の軸受は軸体の周囲に密着するものに限らず、軸体が一方向に移動できるように一部を平面状に形成したものもあり、特にナイフエッジを軸体として用いる場合には単なる平面だけで軸体を支持するようにしたものもある。

被控訴人製品は内枠が外枠に回動可能に支持されており、「枢着」されていることは明らかであり、軸が他の部品を貫通しているか否かによつて「枢着」の成否が決せられるものではない。

(四) 被控訴人製品は、いずれも天井点検口であるから、本件発明の構成要件(4)を充足する。

(五) ところで、本件発明の侵害の成否は、被控訴人製品が右発明の技術事項である点検のため内枠の九〇度回動による開口部の形成がなされているかどうかによるのであり、九〇度回動した後に内枠を外枠から取外すかどうかは右技術事項の範囲外で判断の対象外である。本件発明の詳細な説明において「内枠をはずすことなく回動状に開閉して」との記載があるのは、内枠開閉の際その都度内枠を取外す必要がないことを述べているにすぎず、「内枠を取外すことができない構成」に限定されるものではない。

(六) したがつて、被控訴人製品は、いずれも本件発明の技術的範囲に属する。

7  被控訴人製品と本件考案の構成要件との対比

(一) 被控訴人製品は、外枠1の枠片2の下端に外向き及び内向きの突縁があり、内枠7の下端にも外向き及び内向きの突縁があつて、外枠1の下端縁6と内枠7の下端縁13とが近接して揃うように、外枠1内に内枠7を嵌入しているので、本件考案の構成要件(1)を充足する。

(二) 前記6の(二)ないし(四)と同一の理由(なお、6(三)の「回動自在に枢着されている」とあるのは、本件考案の構成要件(3)の「開閉自在に枢支されている」と同義であると解される。)により、被控訴人製品は、本件考案の構成要件(2)ないし(4)を充足する。

(三) したがつて、被控訴人製品は、いずれも本件考案の技術的範囲に属する。

8  損害

(一) 被控訴人の前記控訴人らの権利の侵害については、過失があつたものと推定され、被控訴人は控訴人らに対し、その損害を賠償しなければならない。

(二) 被控訴人が製造した前記「テンケンハッチ」及び「テンケンハッチユース」の昭和五一年九月一日から昭和五五年一二月三一日までの間の売上高は、金二億八六〇〇万円(月平均二五〇〇台、単価平均金二二〇〇円として算出)を下らない。

(三) 控訴人ナカ技研は、本件特許権及び実用新案権の実施料相当額の一部として、右売上高の一〇パーセントに当る金二八六〇万円を損害賠償として請求する。

すなわち、右二つの権利の実施料相当額は、売上高の一五パーセントであるが、共に存続中の分についてはその一部である売上高の一〇パーセントに当たる金額とし、実用新案権が消滅した昭和五四年九月一七日以降については、特許権の実施料相当額の一部として売上高の一〇パーセントに当る金額を請求する。

(四) 控訴人ナカ工業は、前記のように本件特許権及び実用新案権について専用実施権を有し、かつ専用実施権を取得する前から業として天井点検口を製造販売していたものであるから、被控訴人が右製造販売により受けた利益の額を以つて損害の額と推定され、その利益の額は金六五〇〇万円(一台の平均利益額金五〇〇円、月平均の製造販売数量二五〇〇台として算出)を下らないので、この金額を請求する。

9  よつて、(一)控訴人ナカ技研は被控訴人に対し、本件特許権及び本件実用新案権に対する侵害による損害金の内金二八六〇万円及びこれに対する不法行為後の昭和五六年五月一三日から支払ずみに至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求め、(二)また、控訴人ナカ工業は被控訴人に対し、本件特許権及び本件実用新案権の各専用実施権に対する侵害による損害金六五〇〇万円及びこれに対する不法行為後の昭和五六年五月一三日から支払ずみに至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否及び被控訴人の主張

(請求原因に対する認否)

1 請求原因1及び同2の各事実は認める。

2 同3及び同4のうち、各(一)の(4)の事実は認めるが、その余の点は全て争う。

3 同5の事実は認める。

4 同6及び同7は、全て争う。

5 同8のうち、控訴人ら主張の被控訴人製品の販売単価及び月産数量は認めるが、その余の点は争う。

(被控訴人の主張)

1 構成要件の不充足

被控訴人製品は、以下にみるように本件発明及び本件考案のいずれとも構成を異にしており、その技術的範囲に属しない。

(一) 被控訴人製品は、本件発明及び本件考案の各構成要件(1)をいずれも充足しない。

(1) 被控訴人製品は本件発明の「枠の下端部が内側に突出した外枠」を、本件考案の「枠の下端に外向き突縁を設けた外枠」の各構成を欠いている。

被控訴人製品には、外枠の内側に摺動係止片の半円形部分が回動するための溝5が形成されているところ、右溝は回動に直接かかわるのに対し、本件発明及び本件考案の外枠に存在する傾斜した足部は直接内枠の回転には関係しておらず、両者は異質である。

(2) 被控訴人製品も本件発明の構成要件のうち「外枠の下端縁と内枠の下端縁が近接して揃うように内枠を嵌入する」要件は具備しているが、およそ外枠に内枠を嵌入する場合に両者を出来るだけ近接して隙間をなくし、又両者を同一平面に揃えて凹凸を無からしめるのは常識的なことで、外枠と内枠よりなる天井点検口一般における属性というべきもので、本件発明により創作されたものではなく、右要件は軸体による回動のための目的的な空間を形成したうえ、右軸体を枢着させて外観上の美観を保つ必要から当然の公知技術を注意的に付加強調したにすぎず、本質的な要件とはいえないものである。

(二) 被控訴人製品は本件発明及び本件考案の各構成要件(2)をいずれも充足しない。

(1) 本件発明及び本件考案にいう「軸体」とは、回動自在にさせるためのもの一般を指すのではなく、内枠が回転するとき内枠を固定して自らは一定個所に静止した直棒を指すものと解されるところ、被控訴人製品には右「軸体」は存在しない。

「軸体」の意義を右のように解すべきことは、本件発明の「詳細な説明」に「一方軸体は……これらの両端部には鞘管15が嵌挿され」(本件発明の公告後の訂正公報二頁左欄三行目以下五行目まで)、「相対向する内外枠2、1を貫通せしめる以外に左右別個に軸体を設けて」(同上一三行目以下)、「必要に応じて十分に太い軸体を用いる」(同上三七行目以下)などと「嵌挿」「貫通」「太い」などの用語が用いられ、図面(右公報第一、二、五図参照)にも直棒として図示されていることからも明らかであり、本件考案についても別異に解すべき理由はない。

第1図

第2図

第4図

(2) 本件発明及び本件考案では回動の中心は一か所でかつ回動のための目的的な空間を必要とするのに対し、被控訴人製品では接触点が移動し(別紙物件目録添付の第101図参照)、回動のための目的的な空間も不要で、単に外枠との内枠を組合わせる際に設計上必要とされる「はめあい」の空間があれば足りる。

(3) 本件発明及び本件考案においては回動は外枠の下端縁の上方で行なわれるのに対し、被控訴人製品ではその摺動係止片の半円形部の転動は外枠の下端縁の溝の上で行なわれるから、材料の厚さ分ではあるが下端縁の上方で行なわれる。

(三) 被控訴人製品は本件発明及び本件考案の各構成要件(3)をいずれも充足しない。

本件発明にいう「枢着」は二個の部品が一個のピンや軸によつて貫通して回動自在に止着された状態を表わす運動機構学上の用語であり、本件考案にいう「枢支」もこれと同義に解すべきところ、被控訴人製品は回動自在ではあるが、その内枠は取りはずしが自在であり、本件発明にいう「枢着」及び本件考案にいう「枢支」の構成がとられていない。

第三  証拠<省略>

理由

一請求原因1(控訴人ナカ技研がもと本件特許権及び本件実用新案権の権利者であつたが、右各権利はそれぞれ昭和五九年九月一〇日、同五四年九月一六日、存続期間満了により消滅したことなど)及び同2(控訴人ナカ工業が右各権利につき、その存続期間中専用実施権を有していたことなど)並びに同5(被控訴人が、別紙第一ないし第三物件目録に記載のような各要部構造及び係止金具による取りつけ構造を有する被控訴人製品を製造・販売していることなど)の各事実は、当事者間に争いがない。

二被控訴人製品が本件発明の技術的範囲に属するか否かについて

1  本件発明の構成要件

(一)  前記当事者間に争いのない本件発明の「特許請求の範囲」の記載(別紙特許権目録参照)、<証拠>(本件発明の訂正公報――以下「本件訂正公報」という。)によれば、本件発明は、次のとおりに分説されうる要件の結合によつて構成されていることが認められる(なお、次の(3)が本件発明の要件の一つであることは、当事者間に争いがない。)。

(1) 枠の下端部が内側に突出した外枠に、外枠の下端縁と内枠の下端縁が近接して揃うように内枠を嵌入していること。

(2) 外枠及び内枠の一側方に偏し且つ枠内の下端縁より上方に設けられた軸体によつて、内枠を回動自在に枢着していること。

(3) 天井点検口であること。

(二)  右要件(2)のうちの「軸体によつて内枠を回動自在に枢着していること」の意義について

(1) 本件訂正公報の発明の詳細な説明中には、発明の目的として、「本発明の第一の目的は内枠を外枠に枢着して内枠をはずすことなく回動状に開閉して天井点検口及びその周囲の汚損や損傷を防止することであり」(一頁左欄三五ないし三七行目)、構成の説明として、「軸体14は外枠1の一側方に偏して且つ枠の下端線よりも上方の位置に設けられこれらの両端部には鞘管15が嵌挿され、この鞘管15は内枠2を貫通して天井点検口の閉蓋時内枠2の下端部と外枠1の下端部とが一致するよう内側ナット16で位置が規制されて、内枠2はこの軸体14を中心として第3図図示の矢印方向に回動して左右に揺れたり、位置ずれが生じないようになつている。なお、第1図図示のようにこの軸体14は外枠1の一側方に偏して相対向する内外枠2、1を貫通せしめる以外左右別個に軸体を設けて特に板厚の厚い天井板9を用いる際等に生じる恐れのある天井板と軸体の接触を防ぐものでも良い。」(二頁左欄三ないし一六行目)、「四角形を有する外枠1に同様四角形を有する内枠2を嵌入して外枠1の一側方に偏して且つ枠の下端線(「縁」の誤り)よりも上方の位置に軸体14を設けて回動自在に枢着しており、天井点検口を使用する際には開閉装置17を解錠することによつて外枠1に嵌入されている天井板9を張着した内枠2が軸体14を中心として下方に自動的に回動して開蓋するもので」(二頁左欄二二ないし二九行目)、「また、軸体14は天井面に全く表われないため、軸体の天井面露出によつて美観が損われることがなく、しかも必良(「要」の誤り)に応じて十分に太い軸体を用いることができるため、堅牢な天井点検口が得られる。」(二頁左欄三五ないし三九行目)と記載され、また、本件訂正公報の添付図面には、鞘管が外枠の両端部に嵌挿され且つ内枠を貫通し、さらに右鞘管の内側に軸体を貫通せしめている天井点検口が表示されている。

(2) 右記載及び表示によれば、本件発明の実施の態様として、外枠の一側方に偏した両端部に嵌挿され、同じく一側方に偏した位置で内枠を貫通する鞘管は、天井点検口として閉蓋時に前記(一)の(1)の要件を確保し、しかも開蓋時に内枠の回動の中心となるように、内外枠とは別体である軸体を、内側ナット16とともに、内枠の一側方に偏し且つ枠内の下端縁より上方の所定位置に位置決めして、貫通せしめていることが認められる。

(3)  右明細書の記載及び実施の態様からすると、前記本件発明の要件(2)における軸体は、天井点検口として、前記(一)の(1)の要件を確保すべく、すなわち、閉蓋時に外枠の下端縁と内枠の下端縁が近接したまま揃うように、しかも開蓋時に内枠の自在な回動の中心となるように、外枠及び内枠の一側方に偏し且つ枠内の下端より上方に位置決めされた所定位置において、別体として、内枠と外枠との組合せのそれぞれを、対応する位置で貫通するように取付けられ、本件発明の特徴部分を構成しているものということができる。

2  前記要件(2)をかなめとした本件発明と被控訴人製品との対比

(一)  前記当事者間に争いのない「被控訴人製品の有する要部構造及び係止金具による取りつけ構造の説明」(別紙第一ないし第三物件目録中の「要部構造の説明」及び「係止金具による取りつけ構造の説明」の各記載と図面参照。なお、被控訴人製品の特定として、被控訴人は、別紙第一物件目録中の「被控訴人の付加特定」のとおり付加することがあるけれども、図面によつて示される構成の内容自体において変るところがなく、被控訴人が特に指摘する部分も、控訴人が特定する構成の技術的意義を何ら変更するものではなく、それと技術的に矛盾する構造・作動ではない。)には、被控訴人製品における係止金具(被控訴人主張の摺動係止片――以下、単に「係止金具」と表現する。)と外枠及び内枠との関連につき、次の趣旨の記載がある。

(1) 内枠7の枠片8には、コーナー金具10の端部を折曲げて構成した細長板状の係止金具11が設けられている。

(2) 外枠1内に内枠7を嵌入した状態では、内枠7は、係止金具11の円弧状の下端12が外枠1に設けられた溝部5の底部、すなわち外枠の下端の内向き突縁上に載せられている。

(3) 内枠7は係止金具11の下端12を回転中心として回動する。

(二)  右記載によれば、被控訴人製品における係止金具は、内枠の枠片にコーナー金具の端部を折曲げて構成された細長板状のもので内枠に一体に形成されていること、及び係止金具の円弧状の下端は外枠の下端の内向き突縁上に載置されていること、並びに右載置された部分、すなわち係止金具の下端と外枠の下端の内向き突縁との接触部分を回転中心として係止金具と内枠とが一緒に回動することなどが明らかである。

(三) 右のとおり、本件発明の軸体に相当すると控訴人らが主張する被控訴人製品の係止金具の円弧状の下端は内枠と一体に形成されており、そもそも、外枠、内枠の所定位置に位置決めされて、これらを貫通するものではなく、また、「内枠2はこの軸体14を中心として第3図図示の矢印方向に回動して左右に揺れたり、位置ずれが生じないようになつている。」(本件訂正明細書二頁八ないし一一行目)様に、それを中心として内枠を自在に回動させるものではないから、本件発明における前記1の(二)の(3)説示のような本件発明の特徴部分を構成する軸体とは到底いえない。したがつて、右構成の観点からみても、被控訴人製品は、本件発明のかなめである前記要件(2)を充足するものではないから、本件発明の技術的範囲に属しないというべきである。

第3図

第5図

第6図

第7図

第101図

第102図

3  被控訴人製品が本件発明の技術的範囲に属する旨の控訴人らの主張に副う、<証拠>は、いずれも独自の見解に基づくものであつて、前記の認定判断に照らし採用することができない。

三被控訴人製品が本件考案の技術的範囲に属するか否かについて

1  本件考案の構成要件

(一)  前記当事者間に争いのない本件考案の「実用新案登録請求の範囲」の記載(別紙実用新案権目録参照)、<証拠>(本件実用新案公報)によれば、本件考案は、次のとおりに分説されうる要件の結合によつて構成されていることが認められる(なお、次の(3)が本件考案の要件の一つであることは、当事者間に争いがない。)。

(1) 枠の下端に外向き突縁を設けた外枠に、枠の下端に内向き突縁を設けた内枠を、外枠の下端縁と内枠の下端縁を同一平面状とするよう嵌入していること。

(2) 外枠及び内枠の一側方に偏し且つ枠内の下端縁より上方に設けられた軸体によつて内枠を開閉自在に枢支していること。

(3) 天井点検口であること。

(二)  右要件(2)における「軸体によつて内枠を開閉自在に枢支していること」の意義について

本件実用新案公報の考案の詳細な説明には、「5は軸体であり、前記内外枠2、1の一側方に偏し且つ枠体内の下端縁より上方に設けられ、内枠2を開閉自在に枢支している。」(1欄二三ないし二六行目)、「軸体5を内外枠2、1の一側方に偏し且つ枠内の下端縁より上方に設けることによつても、内外枠2、1の下端縁4、4と天井面とを略々同一平面状としたり軸体5を天井面に突出させないようにできるため、天井面の仕上がりを美麗とすることができ、且つ内枠2の容易な開閉を妨げない。」「2欄一四ないし二〇行目)とあるほか記載はないが、その図面と、<証拠>により、同一出願人による日を接した出願であつて、本件考案の先行技術と認められる本件発明の訂正明細書の第5図とを照校すれば、天井点検口として、前記(一)の(2)の要件を確保すべく、内枠とは別体の軸体が、外枠及び内枠の一側方に偏し且つ内枠内に張設すべき天井板より離れた上方位置に設けられており、またその軸体は位置決めされた位置において回動の中心となつて内枠を開閉自在に枢支していることによつて本件考案を構成している、すなわち、軸体と、外枠、内枠との取りつけ位置等について本件発明に比して限定がなされていることが認められる。

2  構成要件(2)をかなめとした本件考案と被控訴人製品との対比

前記二の2の(一)、(二)によれば、本件考案における、内枠を開閉自在に枢支している軸体に相当すると主張する被控訴人製品の係止金具の円弧状の下端は、内枠と一体に形成されており、また内枠の下端縁に載置されているのでこれより離れて位置決めされた位置において回動の中心となるべく内枠を枢支しているものではないから、前記1の(二)に説示のような本件考案のかなめである前記要件(2)を充足するものとは到底認められず、したがつて被控訴人製品は、本件考案の技術的範囲に属しないというべきである。

3  被控訴人製品が本件考案の技術的範囲に属する旨の控訴人らの主張に副う、<証拠>は、いずれも独自の見解に基づくものであつて、前記の認定判断に照らし採用することができない。

四以上のとおり、被控訴人製品は、本件発明及び本件考案のいずれの技術的範囲にも属しないから、被控訴人が被控訴人製品を製造・販売しても、本件特許権及び本件実用新案権並びに右各権利の専用実施権を侵害するものとはいえない。したがつて、右侵害を前提とする控訴人らの本訴各請求は、その余の点について判断するまでもなく、全て理由がない。

五結論

よつて、控訴人らの被控訴人に対する本訴各請求をいずれも棄却した原判決は結局相当であつて、控訴人らの本件各控訴は理由がないのでいずれもこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、九三条一項本文、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官舟本信光 裁判官吉本俊雄 裁判官井上繁規)

特許権目録

発明の名称 天井点検口

出願 昭和三九年九月一〇日 特願昭三九―五一〇四〇

出願人 中 博光

出願公告 昭和四六年一月二五日 特公昭四六―三〇二九

登録 昭和四八年二月五日 特許第六七六一一六号

なお、本件特許については、当初の公報に誤載があつたので、昭和四六年六月四日訂正公報が発行され、さらに同年一二月二二日付手続補正により、昭和四八年七月一二日公告後の補正による訂正公報が発行された。

特許請求の範囲

1 枠の下端部が内側に突出した外枠に、外枠の下端縁と内枠の下端縁が近接して揃うように内枠を嵌入し、外枠及び内枠の一側方に偏し且つ枠内の下端縁より上方に設けられた軸体によつて、内枠を回動自在に枢着してなる天井点検口。

2 枠の下縁部が内側に突出した外枠に外枠の下端縁と内枠の下端が近接して揃うように内枠を嵌入し、外枠の一側方に偏し且つ枠の下端縁より上方に設けた軸体によつて内枠を回動自在に枢着し、内枠の内側壁には内枠部天井板止着用枠体を上下動自在に嵌入してなる天井点検口。

3 枠の下縁部が内側に突出した外枠に外枠の下端縁と内枠の下端縁が近接して揃うように内枠を嵌入し、外枠の一側方に偏し且つ枠の下端縁より上方に設けられた軸体によつて内枠を回動自在に枢着し、前記内枠はその開口方向に平行に延長する主縁部と主縁部の一側から内枠開口方向の内側に突出する鈎状突縁を有し、天井面に表われる天井点検口縁部仕上げに応じて鈎状突縁を表わすように下方に位置するか鈎状突縁を天井面を表わさないように上方に位置するかして内枠を組立てて外枠内に配置することを特徴とする天井点検口。

実用新案権目録

考案の名称 天井点検口

出願 昭和三九年九月一六日 実願昭三九―七二九五五

分割出願 昭和四二年九月一六日 実願昭四二―七八九〇六

出願人 中 博光

出願公告 昭和四九年三月二五日 実公昭九―一二二〇二

登録 昭和五〇年八月二九日 実用新案第一〇九五一六二号

実用新案登録請求の範囲

枠の下端に外向き突縁3を設けた外枠1に、枠の下端に内向き突縁3を設けた内枠2を、外枠1の下端縁4と内枠2の下端縁4を同一平面状とするよう嵌入し、外枠1及び内枠2の一側方に偏し且つ枠内の下端縁4、4より上方に設けられた軸体5によつて内枠2を開閉自在に枢支してなる天井点検口。

第一物件目録

(控訴人ら及び被控訴人の特定)

一、要部構造の説明

下端に外向きおよび内向きの突縁3′、3を設け、かつ上端に内向き突縁15を設けた四本の枠片2を正方形又は長方形に枠組みした外枠1と、下端に外向きおよび内向きの突縁9を設けた四本の枠片8を正方形又は長方形に枠組みした内枠7とを有し、外枠1の下端縁6と内枠7の下端縁とが近接して揃うように外枠1内に内枠7を嵌入するとともに、内枠の一側方に偏した位置に設けた係止金具11によつて内枠7を外枠1に回動自在に取りつけてなる天井点検口。

二、係止金具による取りつけ構造の説明

① 外枠1の下端に設けられた内向きの突縁3の突出先端部には立上り片4が形成され、この立上り片4と枠片との間に溝部5が形成されている。

② 内枠7の枠片8には、第4図に示すように、コーナー金具10の端部を折曲げて構成した細長板状の係止金具11が設けられている。

③ 外枠1内に内枠7を嵌入した状態(第1図および第2図)では、内枠7は、第5図に示すように、係止金具11の円弧状の下端12が、外枠1に設けられた溝部5の底部に載せられると共に、内枠7の開放端側に設けられたロック14に支持されて外枠1に取りつけられている。

この時、係止金具11の円弧状の上端は外枠1の上端の内向き突縁15に近接し、係止金具11の一側は外枠の内側のコーナー金具16に当接している。(第6図)

④ ロック14を解除すると、内枠7は係止金具11の下端12を回転中心として回動し、開蓋(開放)状態となる(第3図参照)。

第7図は、内枠7の回動に伴う係止金具11の作動状態を示している。

三、図面の説明

第1図は閉蓋(施錠)状態における上面斜視図、第2図は同下面斜視図、第3図は開蓋(開放)状態を示す下面斜視図、第4図は内枠のコーナー金具10および係止金具11を示す斜視図、第5図は係止金具11による内枠7と外枠1との取りつけ状態を示す斜視図、第6図は閉蓋(施錠)状態における係止金具11と外枠の内側のコーナー金具16との当接状態を示す断面図、第7図は内枠7の回動に伴う係止金具11の作動状態を示す説明図である。

四、符号の説明

1 外枠

2 外枠の枠片

3 外枠の下端の内向き突縁

3′ 外枠の下端の外向き突縁

4 立上り片

5 溝部

6 外枠の下端縁

7 内枠

8 内枠の枠片

9 内枠の突縁

10 内枠のコーナー金具

11 係止金具(被控訴人主張の摺動係止片)

12 係止金具の下端

13 内枠の下端縁

14 ロック

15 外枠の上端の突縁

16 外枠の内側のコーナー金具

17 外枠の外側のコーナー金具

(被控訴人の付加特定)

五、符号の説明

101 屈曲突縁(控訴人主張の3と4、なお、摺動係止片11を係止する溝部5を形成するものであつて外枠1の下端に設けられている。)

102 切欠け

103 摺動係止片11と溝部5の接触点

六、摺動係止片の作動

ロック14を解除すると、内枠7の摺動係止片11の円弧状の下端12が外枠1下端の内向き屈曲突縁101の溝部5内を転動し(第101図参照)、両者の接触点103が次第に内方へ移動し、内枠7に対して九〇度回動し、第3図の状態になる。

次に右のようにして内枠7を九〇度回動したのち、これを外枠1から外すには第102図に示すように、内枠7を外枠1の中程まで摺動させ、切欠け102から上向きに押し上げ、摺動係止片11が切欠け102から抜けたのちに内枠7をその面が外枠1の面に対して斜交するように水平方向に回転すれば、外枠1とその係合が外れる。その上で内枠7を上下又は下に抜き出せば、外枠1を完全に開放した状態にすることができる。

なお、右のようにして外した内枠7を外枠1にはめるには、右の要領と逆に行えばよい。

第二、第三物件目録<省略>

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